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ブラック企業経営者の本音』(秋山謙一郎/扶桑社)  
後を絶たないブラック企業問題。
過酷な長時間労働、サービス残業、給料の遅配、最近では過労死のニュースでさえ珍しくなくなってきている。

なぜブラック企業で人々は働くのだろうか? 
なぜすぐに辞めることができないのだろうか?
そこには、ブラック企業で使いやすい人間を採用し、操るための悪しきノウハウがあった。

 ブラック企業経営者の本音』(秋山謙一郎/扶桑社)では、普段聞くことのできないブラック企業経営者の声が掲載されている。

本書からあまりにもブラック過ぎる本音を探ってみたい。

都内で零細IT企業を経営する関西出身の弓田氏(仮名・49歳 男性)は、社員は“消耗品”、2、3年使えればいいと言う。

弓田氏の会社の募集要項には“定年なし”“勤務条件応相談”“会社を通して社会貢献したい人、ボランティアに関心がある人、歓迎”という文字が躍る。
魅力的な条件だと思う人も中にはいるだろう。

しかし、弓田氏は定年なしについて「定年があらえへんのは、ウチが辞めてくれゆうたらいつでも辞めてもらうゆう意味や」と、勤務時間応相談については「ウチの会社にとって都合がいい時間を理解せえ、ゆうことや」と言う。
会社に貢献、奉仕するのはボランティアに近いと言いたいのだろうが、それにしても無理やり感が否めない。
「募集する時にやな、それとのう、ウチの事情をわかるように書いてんねんで。それで察して欲しいわ」と言う弓田氏は完全に開き直っている。

弓田氏の採用基準は学歴も職歴も問わないが
“そこそこ育ちのいい人間”
人を疑うことを知らない。
責任感が強く上司の言うことを聞く。
自分から何かをしようとする積極性がない。
そういった人材が使い勝手がいいと言う。

朝7時に出社し、夜22時、23時まで働き、泊まり込みの仕事も多い。
むしろ仕事をしてもらいたいがため積極的に泊まり込みをするような人間を求めている。
そのような“使い倒せる人間”は“そこそこ育ちのいい人間”と同様、弓田氏にとって重要な採用基準であり、この2つが我が社の理想の社員像だと言う。

“使い倒せる人間”を見つけるのに適しているのはハローワークだ。

ハローワークに求人を探している人は前職で上手くいかなかった人、20代ならば司法試験や公務員試験などに落ちて仕方なく仕事を探す人も多い。

就活では条件が悪く他では雇ってもらえなかった人材が多いため、馬車馬のように働く。
また、そういった人材を雇えば休める時間がないほどに仕事を与え、すぐには転職活動をできないようにしてしまう。

給料を上げることはしたくないので、雇うのは2、3年と考えている弓田氏にとって社員は“消耗品”という言葉以外当てはまらないのかもしれない。

本書では弓田氏の話以外にも資格を次々とらせることで時間を奪う資格ハラスメントや、コーヒー1本を毎日渡すことで経営者を神格化して社員を洗脳する方法など、何気ない行動で人をブラック企業に縛る方法が書かれている。

ブラック企業の実態を経営者側から知りたいという人は、ぜひ目を通して頂きたい。

文=舟崎泉美